今年読んだ本の中の中でおもしろかったもの2冊を選んだら、「未来」が共通するテーマになりました。年末年始、今後の社会や生き方を考える際に参考になりそうな本たちです。
■ほとんどの人は選択肢など持っていなかった
今年あった一番衝撃的な出来事としては、東日本大震災を思い浮かべる人がほとんどではないでしょうか。私は今年の2月、地震が起こる約一ヶ月前に留学先のニューヨークから東京に戻りました。帰国直後のメモには
日本は嘘みたいに平和で安全できれいでなんだかうさんくさい。
リスクを包み隠している感じで、
それは時限爆弾のように崩壊の時を待っている。
と走り書きをしていました。
その私の予感は、今回の地震とそれに続く原発事故で現実のものとなりました。
3月11日、私は地元福島の家族や友人からの返信がない電話を握り締めながらテレビで津波に飲み込まれる街を呆然と見ていました。結局、私や大多数の日本人はリスクに対して脆弱でほとんど生き方の選択肢など持っていなかったのです。
「大震災の後で人生について語るということ」はまず戦後の日本人の人生設計を支配してきた「4つの神話」が崩壊してきた様を説明し、代案として今後どのように生きるべきかを示す構成となっています。
「4つの神話」とは、
・不動産神話:持ち家は賃貸より得だ
・会社神話:大きな会社に就職して定年まで勤める
・円神話:日本人なら円資産を保有するのが安心だ
・国家神話:定年後は年金で暮らせばいい
の4つです。
これらの神話の上に人生設計を築き、途中で挫折した人が近年少しずつ増えてきています。
以下は本書でも紹介されている日本の自殺死亡率(人口10万人あたりの自殺者数)の推移です。(画像が粗いですがクリックすると拡大されます)
平成23年版「自殺対策白書」より引用
アジアを中心とした経済危機が起こり、日本でも金融機関の破綻が相次いだ1997年の翌年から大きく自殺率が跳ね上がっているのが分かります。
女性の自殺率は微増なのに対し、男性の自殺率は26.6から37.2へとたった1年で約4割増えています。特に45〜64歳の男性での自殺者数がほぼ倍になっています。(年代別のグラフは割愛)
以下は原因・動機別の自殺者数の推移です。(こちらは本書では紹介されていません)
健康問題は一貫して一番多いのですが(水色の線)経済・生活問題が、こちらも98年以降急増しています。(オレンジの点線です) 職業別自殺者数を見ると、無職者が全体の半数以上だそうです。
これらの統計から、失業により「4つの神話」の上に築いた人生設計が失われ、しかしそれをもう書きなおすことができなくなってしまった多くの中高年男性達が人生に行き詰まっていく姿が浮かび上がります。
こういった状況に陥らないためにはどうするかを本書では示しています。
作者は本書の内容に関してこう語っています。
もちろんほとんどの日本人は、このようなことはできないでしょう。
だからこれは、たんなる絵空事です。
しかしこの絵空事が、
一部のひとには実現可能な世界が開けてきたこともたしかです。
この本を読んでいるあなたもその一人だと、私も信じています。
たしかにこの本の内容を実行に移すのは難しいです。私もまだまだです。しかし私も、周りの友人も、確実に本書で示されている方向へシフトしてきています。
おそらく今の時期は、新年の目標や今後の生き方を考える方が多いと思います。そんな方々に本書の一読を強く薦めたいです。
以下、本書より抜粋の一文。
未来は不確実で、世界は限りなく残酷です。
明日は今日の延長ではなく、
終わりなくつづくはずの日常はふいに失われてしまいます。
しかしそれでも私たちは、
そこに何らかの希望を見つけて生きていかなければならないのです。
大震災の後で人生について語るということ posted with ヨメレバ 橘 玲 講談社 2011-07-30